震度は間違い無く7だった。家が潰れないのでこんな古い木造の家なのに随分と頑丈だなと、驚くとともに安堵する。十年以上前に行った外壁補強のおかげだろうかとも思ったがよく分からない。
 しかし数秒後、徐々だが静まりかけているかに感じられた揺れが再び大きくなりだした。今度は反対方向への激しい横揺れが始まる。すると気持ちは一変し、次の瞬間には二階部分を支えていた柱が折れ下が圧し潰されてしまうのではないかという、不吉な想像が突然、そしてじわりと胸に迫る。
 そうなればもう助からない。床がすっぽり下に落ちるだるま落としのような光景、もちろん自分も一緒にだ。無事では済まないだろう。

 相変わらず揺れている。部屋の中にはいくつもの重たい家具が布団を囲む格好に屹立している。こうなっては自分にやれることは限られているがと、今ではほとんど諦めに支配されているものの、半ばヤケクソ気味に両足を天井にむけて突き出してみる。うつ伏せになって寝ているので、その格好はさながらプロレス技の逆エビ固め一人バージョンといったところだった。
 そのときに考えたことは、倒れこんできた家具を掛け布団が覆いかぶさる形で上に突き上げた足へとうまい具合に一旦載せられれば、少しの間は支えながらゆっくりと脇に下ろせるかもしれないという、馬鹿力ならぬ火事場の馬鹿閃きだ。一瞬でも自分のえられないものであったとしても、足にぶつかって倒れる場所が逸れてくれればいいのではないかと。
 幸い分厚い掛け布団に守られているので、家具を受け止めたとしても足に与えるショックは小さくてすむかもしれない。足が伸びきった状態の上に相当の重量物が載ってしまうのが一番まずい。特に地面が上下左右と大きく揺れるにただ体を任せざるを得ないこの今の状態では、そこから持ち上を作って引き抜く作業は困難なものだろう。極限的な状況の中で自分に出来ることは何かないのか、考えた挙句に勝手にそう思っただけだが。

 目が覚める。地震はいまだに収まっていない。一体どれだけ続いている。鼓動が激しくなる――夢じゃなくて本当に大地震が起きたんだ。

 次に本当に目が覚める。家は揺れていない。一人逆エビ固めの体勢もとっていない。『ガーガー』といった音が耳に残っている……。 

ところでエアコンの脅威に晒されているのはみんな同じでした。今走っている場所が熱帯の国だとは車内からでは全く感じられないくらい、この体は熱病にうなされる患者さながらに震え、かすかに窓に伝わる外気の暖かさを頼りにそちらに出来るだけ凭れ掛かっていたのです。次に一つ右側、つまり最後部座席の真ん中に座る乗客は私以上に肥えた女性とあいなります。